現状のタイを貿易の観点からASEAN諸国と比較してみた│タイ政治経済
こんにちは、アデコの多田です。最近は雨がよく降るので、気温もあまり上がらず比較的過ごしやすい気候です。快適なためか何時間でも寝てられるので、土日も家から出ないことがあり、少しもったいないと感じています。
今回はタイの国際的な位置づけを貿易という観点から分析したいと思います。みなさん、タイと言えばどのようなイメージでしょうか。のんびりとした自然豊かな国でしょうか。逆に工業的に発展した自動車生産の国でしょうか。私の中では、自動車生産台数も多く、タイ国内は自動車産業に大きな影響を受けている印象があり、中国ほどとは行かないまでも「世界の工場」としての機能を果たしているに違いないと想像しております。今回はタイの貿易について見ていくことに重点を置いていますので、内需の大きさなどに関しては考慮しておりません。あくまで国際的な位置づけということなので、タイ国内の話に関しては次回に譲ろうと思います。今回はタイの比較対象として、ASEAN5(マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン)と、シンガポール、日本、中国を挙げています。
現代の世界の工場の中国との比較
まずは、大まかに理解をするために、世界ランキングを見てみましょう。下の表は、輸出額・輸入額の世界ランキングです。
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出典:UNCTADタイの輸出・輸入額は両方24位です。GDPの大きさはIMFのE-Libraryによると27位なので妥当なところです。具体的な金額についてもUNCTAD(国際連合国際開発会議)より対象国のみ抜粋してみました。2015年の数値に関しては、まだアップデートがなかったため2014年までとなっております。


出典:UNCTAD 現代の「世界の工場」と言われている中国ですが、やはり圧倒的な貿易輸出額です。最新の貿易輸出額を見ると、タイに関しては、ASEANの中ではシンガポール・マレーシアについで4位という結果となりました。 中国と比較する以前に輸出総額で言うとマレーシアに追いつこうとしているところでしかありません。しかし、貿易輸出額の成長率という点で見れば 、2000年を起点にマレーシアの伸びが2.38倍の増加と比べ、タイは3.3倍と急速にその差を縮めてきています。この10年間は良きライバルとして輸出競争をしているようです。ただし、中国は9.39倍と比較にならない伸びを示しており、規模で見てもタイは中国の10分の1程度の規模しかない。タイの規模は世界平均から見ても決して低いわけではありませんが、まだ世界の工場となる日は先のようです。(中国の現状を見ていると、世界の工場になることが良いことかどうかもわかりませんが・・・)
また、貿易収支 (貿易輸出額―貿易輸入額)を見てみると、タイはなんと微妙にではありますが貿易赤字の国ということがわかります。今回は、「タイが世界の工場になりえるのか」という疑問に関するものなので、貿易収支に影響している国内の問題に関しては改めて考察することにしたいと思います。
タイが作っているものは!?
まずはざっくりとUUNCTADの資料より抜粋し、タイをはじめそれぞれの国がどのようなものを輸出しているのかを確認してみます。
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出典:UNCTAD中国・日本の工業製品の輸出比率が90%を超えているのと比べると、タイは73%となっており、加工食品など工業製品以外にも強い製品があることがわかります。ライバルであるマレーシアと比較すると、マレーシアには有名な国営企業であるペトロナスがあることからもわかるように、石油資源にも恵まれており天然資源が大きな割合を占めるようです。
出典:UNCTAD少し恣意的ではありますが、工業製品に限る輸出額についての表をつくってみました。
シンガポールを除けば、タイは新興国の中ではトップになります。シンガポールの輸出額のうち90%はIT製品を占め、マレーシアは電気・電子部品の割合が3分の1を占める。下記の表をご覧いただければと思いますが、タイは自動車関連部品をはじめ、宝飾加工品、OA機器関連など様々な分野での輸出がバランス良くあり、この点については1つの産業に依存している産業構造ではないので、逆境に強いことが予測されるのではないでしょうか。(個人的には自動車一辺倒の国だと思っていたのですが、それ以外の製品の輸出も多く、転職の際には様々な経験を活かすことができる国だと思いました。)
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出典: JETRO今後のタイの可能性は!?
上の表の合計の伸び率を見てみると、現在のタイの輸出額は前年比-0.4%と少しではあるが鈍化していることがわかる。輸出が伸び悩んでいる理由としては、下記の内容が考えられるのではないでしょうか。
- リーマンショック以降の国際経済の鈍化
JETROの資料を参考にしたところ、タイの最大の貿易相手国は中国とのことです。中国の経済成長の鈍化はタイにとっても大幅な需要減となるため、輸出減少の大きな要因となってしまう。一例としては、タイではゴムの原材料の輸出が大きな産業となっているが、中国での需要減により減少傾向にあるというお話をお客様から聞くことがありました。
- 労働賃金の上昇(国際競争力の低下)
タイの失業率は2011年以降、1%未満と推移しており、完全雇用が実現されています。労働市場としては、労働者の供給が追いついていない状態なので、労働者の賃金が上がりやすい傾向にあると言えます。また、2012年以降にインラック政権の政策で最低賃金も上げられたこともあり、労働者賃金が工業製品の価格に上乗せされ、国際競争力を失っています。また、バーツ高も国際競争力を下げる要因の一つとなっているようです。
結論としては、タイはASEANの工場だと言うことはできるものの、(わかりきっている話ではありますが)世界の工場と言うにはまだまだ遠いということがわかりました。世界のグローバル化が深まる中、国際経済に影響を受けることは避けられませんが、比較的産業の幅が広く不況に対してもある程度の耐性はあるように思います。
ただ、中国と同様に賃金の上昇による国際競争力の低下は避けられないことだと言えます。実際、多くの企業が「タイ+1」という考え方を受け入れ、タイ周辺国に工場を移し始めていることは興味深い動向です。タイとしては、周辺諸国の管理をする統括拠点として機能するケースが増えてきました。タイ政府も現状を受け入れ、タイ・ミャンマー・ラオス・カンボジア・ベトナムとの経済協力を進めています。この点、今後のタイの経済を予測する上で非常に重要なことなので、次の2回はタイと周辺諸国について書きたいと思います。
今後はタイで就業をするということは、ASEANで働くことと同義になる日も来るかも知れないと思うと、気が引き締まる思いがする一方、ワクワクする気持ちもしますね。
この記事は、2016年8月10日時点の情報になります。